ポケモンカードゲームのイラスト制作の裏側
◎ 「化学変化」を手繰り寄せて、イメージがカタチになるまで
ポケモンカードゲーム公認イラストレーターとして活躍されている斉藤コーキさんに、この記事のためにイーブイのイラストを描き下ろしていただき、その制作テクニックや完成までの工程を特別に見せていただきました!
斉藤コーキ
イラストレーター。2002年からポケモンカードゲームのイラストを手がけ、様々な場面で生息するポケモンの様子を、生き生きと魅力的に描く。カード以外でも「ポケモンセンター」でのアートワークなど、多岐に渡り活躍している。
はじめに
はじめまして。公認イラストレーターとしてポケモンカードゲームのイラストを描いている斉藤コーキです。
イラストを描く上で確実な「正解ルート」というものは無く、描く人によって画材も手法も自由。最終的にどう自分のイメージをイラストにするかが大切だと思います。実際、それが難しく、また楽しいところなんですけどね。
我流ではありますが、今回はボクの描き方を紹介させていただきたいと思います。
- ポケモンカードゲームのイラストを描くときに心がけていること
- STEP1. ポケモン決定~下調べ・構図検討
- STEP2. ラフ作成~ラフ監修提出
- STEP3. 着彩
- STEP4. 仕上げ
- STEP5. 完成!
ポケモンカードゲームのイラストを描くときに心がけていること
ポケモンカードゲームのイラストは、あくまで商品のためのイラストです。その事を念頭に置いてイラストを仕上げるように心がけています。商品のためのイラストということは、自分の描いたイラストがデザイナーさんをはじめ、多くの方々の手を経て世に出るという事。つまり、自分の描いたイラストを多くの方々が取り扱うわけです。
なので、データの中身はレイヤーの確認がしやすいように、「ポケモン」、「背景」、「エフェクト」等になるべくグループ分けして仕上げています。
そんな流れで「ラフ段階」でもポケモンの姿かたちをチェックしやすいように、ポケモンとその他を分けて制作しています。
STEP1. ポケモン決定~下調べ・構図検討
ポケモンカードのイラストの場合、クリーチャーズさんからの発注段階で「登場ポケモンと大まかなシチュエーション」の指定をいただく事が多いです。
過去に多くの作家さんが描いたことがあるポケモンを担当することも少なくありません。そこでまずボクは「今までのイラストにない構図」を考えるところからスタートします。既存の構図を避けるため、下調べをするんですね。たとえば、ポケモンカードゲーム公式ホームページ『トレーナーズウェブサイト』の「カード検索」で該当するポケモンのすべてのカードを一覧表示すると一気に確認することができて便利です。
イーブイを一例に、制作の流れをご説明します!
▲ポケモンの三面図などの資料
ポケモンは設定がしっかりしたキャラクターなので「設定資料」に忠実に、細かな間違いが無いよう入念にチェックをしつつ、ラフ作業を進めます。(それでもバランスが悪くなってしまったり、思い違いでミスがあったりするんですけど;)
ボクの場合「ポケモンは生き物」である事を念頭に、ポケモンたちが生きている瞬間を描くよう努めています。
生き物なので、動きを意識した「動」のイメージ。動きを描く際には「骨格」を意識してポージングしていくと、動きの中にも安定感が出て、力強さや躍動感が増していくと思います。
逆に、今回のイーブイのように「静」の瞬間を描くこともありますが、それは過去の作品との差別化を図ったものでもあります。
※個人的にポージングを考える際によく参考にするものとしてニンテンドー3DSソフト「ポケモン全国図鑑Pro」があります。
STEP2. ラフ作成~ラフ監修提出
まずイラスト全体の「見せる角度」をイメージしてポケモンのポージングを考え、大ラフ画→ラフ画を描いていきます。その際に使用するのは「コピー用紙とシャーペン(青い芯のもの)」です。デジタルでラフ作業を進められる方も多いですが、ボクはライトボックスなどを使ってアナログで作業を進めます。その方が踏ん切りをつけやすく、短時間で制作できるもので(笑)
ざっくりとしたポージングを大ラフ段階で決めて、ライトボックスで透過させつつ(時には裏から透過→左右反転させてパースの狂いを修正しつつ)線を整理し、ブラッシュアップしていきます。
▲これは自己流ですが、ライトボックスで裏から透過させて左右反転してみるとパースの狂いを見つけやすいです。
その「ポケモン」のラフ画をスキャンしてPCに取り込み、修正&調整しつつ「背景」「エフェクト」等のイメージを加筆してラフ画を作ります。
こうしてできたラフ画をクリーチャーズさんに渡し、チェックしてもらって問題ないようでしたら株式会社ポケモンさんの監修チェックに回していただきます。
▲監修では体のバランスや細かいパーツの構成までアドバイスをもらえます。
▲監修を反映させて下絵完成です。
ラフ段階で描く枚数は時と場合によってまちまち。一発でしっくりくるものが描ける時もあれば、何パターン描いても気に入ったものにならない時もあります。そういった時は結局「一番最初に描いた構図」に戻ることが多かったりするので、最初のインスピレーションは大事にしたいです。
STEP3. 着彩
次は着彩の作業です。ボクは多くの場合Photoshopを使って着彩しています。
カードイラストはあくまで「ポケモンが主役」なので、背景は緻密である必要はないという考えのもとに描いています。ただ、シチュエーションをイメージしやすい色になるよう、参考となる画像から色をピックアップして描いていくことが多いです。
▲①下絵から描きおこした線画
▲②ベースとなる設定色を塗る
▲③影レイヤー作成
▲④すべてを重ねた上で、テカリを入れる
今回の背景ですと「木漏れ日のさす森の中」をイメージしながら、地面→草→木々(奥)→草(追加)→影→空気感→日差し…とレイヤーを重ねていきました。
ポケモンよりも手前側に桜の枝を加え、風やキラキラのエフェクト、ホコリ的なノイズを加えています。
STEP4. 仕上げ
遠近感を出すために手前の枝に「ぼかし」加工をしたり、ポケモンを映えさせるために「もや」を加えたりしていきます。
主役であるイーブイを目立たせる効果も狙って「エッジライト」を効かせて、イーブイを強調。
背景部分の奥にあたる部分も「ぼかし」て奥行き感をもたせました。最終的に全体の色味を整えるために「色調補正」のレイヤーを加えてみました。今回は桜のイメージで、うっすらと桜色で(春っぽくなったかな?)。
STEP5. 完成!
これで完成です!
風で飛び散る花びらを眺めてたたずむイーブイ…そんな風を一緒に感じていただけたら嬉しいです。
最後に
毎回、どんな感じに仕上がるかな~と化学変化を楽しみにしつつ、身近な日常風景や自然の中にポケモンが存在したら「こんな感じかな?」と自問しつつ描き続けています。
みなさんも是非「楽しんで」描いてください。Have fun!!!