プロに聞くカッコいいポケモンカードイラストの描き方
ポケモンカードゲーム公認イラストレーターとして活躍されているありがひとしさんに、「カッコいいポケモンカードイラストの描き方」についてうかがいました。
ありがひとし
漫画家・キャラクターデザイナー・イラストレーター。
ポケモンカードゲーム公認イラストレーターとして多数のイラストを制作。
ポケモンシリーズのポケモンデザインや、ポケモンセンター専売グッズなども担当。
その他に、ゲーム制作や、児童書・漫画の作画など幅広く活躍中。
『ポケモンカードゲーム イラストグランプリ』について
—— 2018年に開催された『ポケモンカードゲーム イラストグランプリ』について、どのような印象をお持ちになられたでしょうか。
ありが:皆さんすごく上手でしたし、ポケモンへの愛に溢れていて良かったです。こういう取り組みからポケモンカードゲームの世界観がさらに豊かになるとうれしいな、と思いながら、応募作を見ていました。描き方も人それぞれのタッチがあって、楽しかったです。
—— 『第2回 ポケモンカードゲーム イラストグランプリ』のテーマは「ポケモンのカッコいい瞬間」です。このテーマ設定はいかがでしょうか。
ありが:難しいテーマですが、ポケモンカードゲームにとって重要なテーマだと思います。「ポケモンのカッコいい瞬間」は描く人、あるいは見る人それぞれに違う捉え方があるはずです。それが浮き彫りになると面白いな、と思います。
—— 「クリーチャーズが考えるポケモンカードゲームのカッコいいとは」についてどう思われましたか?
※参照:クリーチャーズが考えるポケモンカードゲームのカッコいいとは
ありが:うなずくところが多かったです。また、自分が感じているポケモンのカッコいい瞬間と、クリーチャーズさんが思うカッコいい瞬間には、それぞれ独自のこだわりがあることに気付かされました。
『ポケモンカードゲーム公認イラストレーター』が考えるカッコいいとは
—— 「ポケモンカードゲームのイラストのカッコよさ」という言葉は様々な意味を含みます。ありがさんの考える「ポケモンカードゲームのイラストのカッコよさ」について教えてください。
ありが:私個人は、一枚のイラストからその前後のシーンを想像できるものがカッコいいと思っています。ポケモンが走っているイラストだったら、どこから走り始めたのか、どこに向かっているのか。ポケモンがワザを繰り出しているイラストだったら、ワザを放つ直前の溜めの瞬間とか。前後が想像できると、一枚のイラストが一枚のイラスト以上の豊かなものになって、とてもドラマチックだからです。ドラマを感じさせるイラストは、カッコいいと考えています。
—— ありがさんがこれまでに手がけられたポケモンカードゲームのイラストの中で、「特にカッコよく描けた」と評価している作品とその理由を教えてください。
ありが:特にカッコよく描けたと思うイラストは、ワザ「やみよにかける」を持ったゾロアです。月の光を浴びながら走って、水しぶきが上がった瞬間ですね。ゾロアがどこに走っていくのか、何を見ているのか、などいろいろ考えながら描きました。このイラストはすごくカッコよく仕上がったと感じています。

「ゾロア」 イラストレーター:ありがひとし
ポケモンカードゲーム XY BREAK 拡張パック「青い衝撃」収録
ポケモンカードゲーム ハイクラスパック「THE BEST OF XY」収録
次はギルガルド。ギルガルドの持つパワフルさを表現したくて、視点を下の方に設定して、暴れて街が破壊されてしまうくらいのパワフルなイメージで描きました。なぜギルガルドがここまでの攻撃を繰り出しているのか、さらにこの後でどのような結末を迎えたのか、様々な想像を掻き立てられますよね。
—— 他のポケモンカードゲーム公認イラストレーターさんの作品で、特にカッコいいと思う作品があれば教えてください。
ありが:皆さん、とてもうまくてカッコいいですね。中でも印象的なのが、川洋さんが描いたツンベアーです。水中にもぐった瞬間が見事に表現されています。色彩も重厚だし、泡の演出もあって、本当に「瞬間」を描いているのです。ゲームやアニメでは見ることができない、ポケモンカードゲームならではのカッコよさだと思います。このイラストは、すごく好きです。
『ポケモンカードゲーム公認イラストレーター』のカッコいい描き方・見せ方
—— ありがさんのカッコいいポケモンカードイラストの描き方について具体的にお聞きします。まず着想はどのようにして膨らませていますか?
ありが:依頼を受けた後に、描くことになるポケモンについて、いろいろと思いをはせるところから始まります。自分の持っているポケモンの知識を活かし、想像力をフルに働かせます。ポケモンによっては、ゲームをプレイして育成したり、一緒に戦ったりして、そのポケモンの得意なことを観察します。このレントラーのイラストは、レントラーが持つ頼もしさを表現しました。ゲームでは、レントラーはとくせい「いかく」を持っているからです。実際にゲームでレントラーを育ててから描きました。
—— さらに具体的にお聞きします。ポケモンのカッコいい構図を決めるとき、表情やポーズなどは、どのように発想しますか。
ありが:表情は、たねポケモンか進化ポケモンかで、かなり変わります。それぞれに合った表情を探りながらイラストを描いていきます。
イラストの小さなフレームの中で、ポケモンのポーズをどのようにするかは、常に戦いです。「新しい表現をしたい」と、いつも試行錯誤しています。
—— ポケモンのカッコいい瞬間を描く際、背景はどのように描くことが多いのでしょうか。
ありが:背景を描くときは、そのポケモンがどこに存在しているのか、見ている人に伝わることを心がけています。もちろん主役はポケモンです。背景は基本的にはポケモンを際立たせるためのものです。ただし、ポケモンの特徴が際立つのだったら、背景を細かく描き込む場合もあります。また、背景物を描く場合は、ポケモンと比較したとき、違和感がないように、サイズを注意深く調整します。
—— ポケモンの大きさは、公式の設定を意識して描かれますか?
ありが:公式の設定は、できる限り意識しています。たとえば、アブリーは小さいポケモンなので、周りのものを大きく描いています。

「アブリー」 イラストレーター:ありがひとし
ポケモンカードゲーム サン&ムーン 「コレクション サン」収録
ポケモンカードゲーム サン&ムーン 「スターターセット草 ジュナイパーGX」収録
ポケモンカードゲーム サン&ムーン 「スターターセット炎 ガオガエンGX」収録
ポケモンカードゲーム サン&ムーン 「スターターセット水 アシレーヌGX」収録
—— ポケモンのカッコいい瞬間を描く際、色彩はどのように意識して塗ることが多いのでしょうか。
ありが:毎作、試行錯誤をしています。ポケモンの周りの環境光やワザのエフェクトなどで、ポケモン自身の色味や質感が変わってきますからね。
—— ポケモンの色味や質感をカッコよく表現するのにどのような工夫をされていますか?
ありが:私は体が毛で覆われているポケモンを描く際、毛をあまりモサモサとは描きません。とはいえ、ポケモンの体表をツルツルにしないようにも心がけています。常に「ポケモンの体をどういうふうに塗るとカッコよく見えるかな?」と考えながら表現を追求しています。
—— ポケモンのカッコいい瞬間を描く際、光と影の使い方はどのように工夫されていますか。
ありが:ポケモンをドラマチックに描く際、光源を後ろに置いて、手前に影が入るだけで情感を表現できると考えています。「ゾロア」の月や「ダークライ」の月、「ひかるゲノセクト」の夕日などがそうですね。

※カード画像はキラ加工が施されています
「ダークライ」 イラストレーター:ありがひとし
ポケモンカードゲーム サン&ムーン 拡張パック「闘う虹を見たか」収録
ポケモンカードゲーム サン&ムーン GXスタートデッキ「悪イベルタル」収録
ポケモンカードゲーム サン&ムーン ハイクラスパック「GXウルトラシャイニー」収録
—— ありがさんの描くポケモンのイラストは、逆光を活かしたものが多いのですか?
ありが:多いですね。やはり逆光がドラマチックに見えるからだと思います。この「ムウマ」は、光源を下に設定しました。怪談を話すときに、顔を下から懐中電灯で照らすことがあるじゃないですか。その効果を狙いました。ポケモンのイラストを描く際に常に意識しているのは、そのポケモンの特徴を最大限に活かす演出です。光と影は演出であり、ドラマだと思っています。
—— ポケモンのカッコいい瞬間を描く際、効果線はどのようなときに入れ、何を強調されるときに使いますか。
ありが:そのイラストに、本当に効果線が必要かどうかを、まずじっくり検討します。そして、効果線が必要だと判断したら、ポケモンがを目立たなくならないように気をつけながら、対象物が浮かび上がっているかのように描きます。このキリキザンは、集中線を濃く描いたあとに、ポケモンの存在を引き立たせるために、どんどん集中線の色を薄くしていきました。
—— ポケモンのカッコいいイラストについて他に制作上のヒントはありますか?
ありが:ポケモンには1匹1匹に細やかな設定があり、それぞれの役割もあります。ポケモンカードゲームでも、すべてのポケモンに存在理由があります。たねポケモンにも進化ポケモンにも役割があって、私はそれぞれのカッコよさを追求しています。たとえば、ポケモンカードゲームでカメックスを活躍させるには、ゼニガメを出してから2回番がかかりますよね。だからカメックスを描く際は、「ついにここまで進化させたぞ!」というプレイヤーの強い想いを表現したい、と意識しています。
—— 第2回ポケモンカードゲーム イラストグランプリへの応募を考えている人に向けて、メッセージをお願いします。
ありが:ポケモンカードゲームは、長い歴史の中で、ポケモンたちがいろいろなタッチや様々なシチュエーションで描かれています。多種多様な描き方ができるところがポケモンカードゲームのイラストの魅力です。決まりごとがあるようで無くて、無いようで「ポケモンを魅力的に描く」という決まりごとがあるところが、ポケモンカードゲームの良さだと思います。第2回も、応募される方が自分の持っているポケモンの世界観で、自由なイラストを描かれるのを楽しみにしています。ぜひドシドシ描いてご応募いただければ、と思います。
構成・文:元宮秀介(ワンナップ) 撮影:山本佳代子